魅魔と魅魔祓い
 コンティ一族というのは、表向きには美術品などの修繕を行う職人としているが、実際には魅魔祓いが本来の生業であった。
 コンティ一族が魅魔祓いを行うようになったのはいつ頃なのか、それははっきりとはしていない。だが、数百年も前から細々と行っていた事は一族内では知られている。
 この一族の凄い所は、芸術品と呼ばれている物はほぼ全て把握している事だ。いつ頃創られ、創作者は誰なのか、どのような経緯によって創られたのか、その全てを知っている。コンティ一族はそこらの商人よりも、よほど詳しく知っていた。
 『一族』などと言ってはいるが、実際はそんなに人はいない。現に今行っている魅魔祓い師はフランチェスカ・コンティ、たった一人だけであり、一族もフランチェスカただ一人だった。
 数多く居る魅魔に対し、払い師はただ一人。もっと人数が多くても良いのかもしれないが、増やす事はご法度とされている。魅魔祓いをしている者は表舞台に出てはいけない、その名を広めてはならない、そう一族内で言い伝えられている。
 これには訳があり、魅魔に魅魔祓いの存在を知られてしまうと、なりを潜めてじわりじわりと精神だけを奪うようになってしまうからだ。そんなことをされてしまうと、流石の魅魔祓い師も手を出す事は出来ない。 第一、魅魔の存在自体が全ての人間に知られている訳が無いので、もし『あなたに魅魔が憑いている』などと表立って言えば、言った者は奇人か気狂いに捉えられかねない。 そんな危険もあるため、魅魔祓い師であるコンティ一族は人の数を少なくし、存在自体を噂か何かにしているのだ。

 本来、コンティ一族は魅魔を邪悪なるもの、消さなければならないものとして捕らえている。事実少し前まで、魅魔はコンティ一族によって消される運命になっていた。
 だが、フランチェスカの母親である先代は少々違う考えを持っていた。
 魅魔は確かに人間の魂や精神を奪い、植物人間や廃人のようにしている。しかし、大体の原因はその奪われている人間にもあるのではないか。そのような考えを持っていた。
 魅魔自体に悪いものはいない、そう考えた先代はなるべく魅魔を助け自分の手助けをするよう協力を願った。
 先代は魅魔の願いを聞き、魅魔は先代の願いを聞く。その取引により魅魔は大人しく取り付いていた人間から離れ先代の元へ来るようになった。
 その取引内容とは、

『1、一族と契約を交わした魅魔には、人間の肉体に変わる『実体』を与える。
 2、実体を手に入れた魅魔は、一族の命令に従い、人間の魂、精神を奪ってはならない。
 3、契約主が死亡した場合、魅魔も消滅する。
 4、双方の意思で契約を解消する事が出来る。その場合、魅魔は実体を返却しなければならない。
 5、双方この契約に違反した場合、双方ともその生命、存在に終止符を打つ。』

 大分魅魔が不利に思える内容ではあるが、人間の肉体を欲している魅魔にとってはそれで充分だった。
 その結果、魅魔は人から精神を奪う事をせず、仮に人間に憑いていたとしても、その人間を操り自分から先代の元へ行くようにまでなった。
 コンティの意思とは反していたのだが、魅魔が大人しくなったのも事実である。
 しかし、その暫しの平穏も先代の死によって潰えた。次代が居る事を知らない魅魔にとって、先代の死はとても衝撃のある話だった。
 先代がこの世から去ったのであれば、我々魅魔は噂通り消されるのであろう。そうした考えによって、魅魔は以前と同じく人間の魂と精神を食らうようになった。



 消す者と消される者、その駆け引きが終わる事は無い。

2008/05/01-2008/05/01
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